理事を務めているHCD-Net(人間中心設計推進機構)の会員向けコラムとして書いた文章。
ローレンス・レッシグは、書籍「CODE」の中で、現在抜け穴だらけの「建前」の制度は、将来的にはコードの形でアプリケーションに埋め込まれ、意図的な例外を除いて原則取り締まられる未来を指摘した。わかりやすく言えば、PCの中で、大きな黒丸の右上と左上に小さな黒丸を描けば、常駐している著作権侵害監視ソフトが自動的にディズニーに報告を行う状況が我々が向かっている未来であるということだ。彼はそこに「部分的に利用を許容する」という意図的な例外を作るために、クリエイティブコモンズ(CC)という制度をデザインした。当然ながらCCには、人がそれを識別するためのロゴマーク、既存の法制度と対応させるための文章に加えて、マシンリーダブルなソースが付属している。そしてこれこそが、CODE時代に体験をデザインする行為となる。「もののインターネット(Internet of Things)」によってこの動き、つまりアーキテクチャレベルからのデザインの必然性、は加速するだろう。
表題とした自動車の速度超過防止装置は、メーカーからの回答では「緊急時の危険回避のため」が常套句となっている。この論で押し通そうとするのであれば、正統な危険回避であればそれはログを残しておくべきものであろうし、それ以外の速度超過も含めて自動的に通報されてしかるべきだろう。 そしてそれは実現可能となりつつある。
人は、前提としている制度自体に加えて、その制度をどう受けとめているという感覚によって行動を変える。これは、ある意味「北風と太陽」の寓話を思い起こさせる。 人の体験のデザインには、表面的なデザインだけでなく、こういったアーキテクチャレベルのデザインが必要とされる。これはHCDに関わるすべての人が意識しなければならない視点となるだろう。