IA Summit 2017 is over

毎年春に開催されている、インフォメーションアーキテクチャ(IA)に関しての国際会議「Information Achitecture Summit 2017」、通称IAS17が3/24-27(事前ワークショップは3/22, 23)に開催された。日本では年度末の大忙しな時期ではあったが、今年も強行軍で参加。結論としては、IAを中心としてデザインのあり方の、新しい視点と混乱とのリアリティを体験することができたたいへんよい機会であった。

Design for Humans

さて、今回のIAサミットは、テーマがDesigning for Humans。これはもちろんAIや新しいテクノロジーをどのようにIAに取り入れていくかという視点という意味である。多くの参加者もそういった関心が高かった。しかしながら成果としては、やはりAIをデザインに活用するということはまだまだ解決すべき論点も多く、一般論で終わってしまっているか、個別のトピック内容の紹介に終始してしまっているかのどちらかで、まだ大局観を持った議論ができていない印象を持った。が、問題意識としてAIがこれから重要な役割を占めることは共通理解としてあり、そういった意味で過渡的な状況であることは感じられた。

その意味で、先日参加した、CSCW(ACM Conference on Computer-Supported Cooperative Work and Social Computing)は、IASとは異なる純粋なアカデミックなカンファレンスであるが、どの研究グループも扱っているテーマはコラボレーションやネットワークコミュニティであり、その意味で結果的にかなりプラクティカルな議論が交わされ、結果としてAIやコンピュータ支援がどういった位置づけにあるかのパースペクティブが得られる会となっていた。このことはたいへん好対照な位置づけであるといえ、

さて、IASであるが、前述のようにテーマに合わせて、キーノート、ブレイクアウトセッション双方で、AIやBot関連のセッションが多く見られた。基調講演では、GoogleのUXディレクターであり、ACM SIGCHIのExecutive Vice PresidentでもあるElizabeth F. Churchill氏による「People in an All Mindset」という弱いAIを考えたときに意識しなければならない論点が提示された(余談だが、GoogleのUXディレクターで、SIGCHIのExcutive VPってすごいことであると思う)。ブレイクアウトセッションでもIBMのCarol Smith氏(@carologic)によるIA全体のパースペクティブの話や、eBayをはじめとするいくつかのChatbotの事例など、とさまざまな観点が見られた。

Calm Technology

また、MIT MediaLabのAmber Case博士の基調講演では、Calm Technologyについての展望が紹介された。Calm Technologyとは、1996年に Mark Weiser博士とJohn Seely Brown博士によって提唱された、「that which informs but doesn’t demand our focus or attention.(知らせてくれるが、注意や関心を引かないもの)」という概念。要は、いかに環境に溶け込んで、人を邪魔せず、それでいて情報を提供してくれるのかということの研究である。Case博士は、パワフルなプレゼンテーションでこのCalm Technologyを紹介していた。これまでも、UIのモダリティや、あるいは人間の認知コストといった文脈で議論されてきた内容ではあるが、Calm Technologyというコンセプトで整理することでわかりやすい論点提示となっていた。

IA Summit Keynote on Calm Technology in Vancouver, BC – March 22-26, 2017 | THE WORLD IS NOT A DESKTOP

Beyond HCD

Design for Humansということであれば、もちろんHCD(Human Centered Design)が登場するわけだが、最近議論になっているように、ここIASでも「HCDの次」がテーマのセッションが設けられていた。Thomas Wendt氏の「Decentering Design or a Critique of Human Centered Design」というセッションで、以下の4つの指摘によってHCDの限界を示した。

1. HCDがそれ自体が抱えているパラドクスをきちんと取り扱えていない
2. HCDは中立であるように見せかけている
3. 「共感」は偽りの倫理である
4. 資本主義のなかのHCDは、そもそもサステナブルではない

これらの論点は、いま日本のHCD-Netなどでも議論されているトピックとも重なっている。加えて、個人が触れる先の「人工物(もしくはUI)」の先はいまやクローズドなシステムではなく、オープンなネットワークがつながっている。人が作るCGMによるコンテンツは、はじめからできあがっているものではなく、参加者によって変化していく。そして変化するのは、コンテンツだけではなく、社会自体もいまや変化の対象として考えられる。こういった対象物に対して、HCDではあまりにも「静的」なアプローチであるといえる。ここは僕自身もいま試論を構成しているところが、たとえていうならば古典力学に対して手の量子力学のような視点が求められている状況のように思える。

このスピーカーのThomasには5月に日本でもイベントに参加してもらう話をしているので、ぜひ彼を交えて議論を行いたい

Taxonomyの復興

昨年までのIASでもTaxonomy(分類)の議論は活性化していたが、今年も興味深い議論が繰り広げられていた。僕が参加した3つのセッションがどれも興味深かったので、それぞれ紹介しよう。

1. Transforming Folksonomy – Adam Ungstad

かつてBBCで全番組のタクソノミー設計などを手がけていたAdam Ungstad氏による、移籍したWHO(世界国連機構)において、いかに情報整理を行っているかというケーススタディおよび構築している理論の共有。WHOサイトにおいて、ユーザーが検索に用いているキーワードとサイト内コンテンツのマッチングを向上させるというミッションに対してのアプローチ。まず、キーワードをサイト検索に用いる「core taxonomy」、WHOで用いられている用語のタクソノミー、そして公共衛生業界全体で用いられている用語のタクソノミーと階層を定義(core < WHO < 公共衛生全体)。その中で「core」から着手し、そこでタグづけできるキーワードを選択していき、現在CMS上へのコンテンツエントリに際してタグづけを行う運用を開始している。WHOという巨大な組織の、膨大なコンテンツにおいて、途方もないタクソノミープロジェクトをいかに遂行していくか。「低木の果物から始める(手をつけられるところからスタートする)」という彼のモットーと共に、理想型のビジョンと、まず進めているプロジェクトについての共有と、かつてAdamがBBCで推進したプロジェクトを彷彿とさせるような、そして貴重なスタート段階の話であった。これからの進捗も楽しみな、実に参考になる話であった。

2. Bridging AI and UX – Team Etsy: Gio, Jenny, and Jill

いまやCtoCマーケットプレイスの雄としてIASにおいてもさまざまな事例を毎年共有してくれる存在となったEtsyのチームによる、Etsyにおけるユーザーの情報探索に対してのAI活用の試行錯誤のストーリー。Etsyにおけるユーザーの「検索」は実は商品を探しているのではなく、アイデアを探している、という発見にもとづき、ではどういったUXを提供すべきなのか、そこにAIを活用できるのかというようなアプローチについて共有がなされた。調査に基づき発見された洞察、それに基づくコンセプト、そしてそのコンセプトのテストとそこから得られた洞察、そして最終的に得られたビジョン「Find more, search less(もっと発見を、検索は少なく)」と、聞いていてわくわくするようなプロジェクトの話であった。具体的には、検索行為に対して、検索結果ではなく、上位のカテゴリ候補を提示する、というような提案型のアプローチをAIを活用しながら実装するということを試しており、企業サイトにせよbotにせよ、これからのUIにおいての人とシステムのやりとりにおいて応用できそうな概念が多く含まれていた。

IAが長いこと課題にしている、「検索ではなくブラウズ(ながら見)」という問題に対して着実な一歩を示している。いわゆるベリーピッキングモデル(イチゴ摘みモデルと訳される、探しながら学習し、また探す、というモデル)を具体的に取り扱うたいへん面白いトピックであった。

3. A Taxonomy of Taxonomies – Bob Kasenchak

タクソノミストのBob Kasenchak氏による、IAに関わるさまざまなタクソノミーを紹介(タクソノミーのタクソノミーというタイトル)。IA領域での構造的なものを大きく3つにわけて、それぞれサイトマップのタクソノミー、ECのタクソノミー、情報探索のタクソノミーとして紹介し、それぞれについて特徴や意識すべき論点を整理して紹介していた。いま、いわゆるサイト構築におけるサイト構造のパターンは、上記でいうところの「サイトマップのタクソノミー」と「ECのタクソノミー」が主となる(拙著でもそこを紹介している)。これに加えてが提唱していたのは情報探索のタクソノミー。これは、我々が日常において、なにか情報リソースを探すときにどのようにしているのか、情報システムをどのように利用するかという視点であり、対象は「Webサイト」に限定されていない。いわゆる日常の情報探索におけるタクソノミーの視点で、これはたとえばドキュメントをどのように管理するべきか、どういった統一かを図るべきかといった観点で応用ができる。組織が発行するレポートのスタイルから、個人のEvernoteのタグづけまで、われわれはいま「探さなければならないドキュメント」に囲まれて生活している。これらとどうつきあうべきかというこの視点は、これからのIAの業界でももっと議論されることになるだろう。

IAモデル構築への長い旅

毎年、新しいモデルやフレームワークを提案しているAndrew Hinton、Andy Fitzgerald、Marsha Haveryなどによるプレゼンテーション。

Marsha Haveryは、一昨年にIAにおけるメンタルモデルを言語的 – 感覚的な理解の二軸で記述し、さまざまなコミュニケーションメディアなどの特性を分析し、その年の話題を独占した。今年は、さらに意欲的な試みとして人のふるまい(behavior)を、選択行為と制御行為とに大別し、理解からふるまいまでをその流れで記述するという壮大なモデルを提示した。まだ荒削りであるが、それゆえの勢いがある。

Andrew Hintonは、日本でもUnderstanding Contextの著作で知られているが、まさに文脈を共有していない人に、いかにものごとを伝えるかという課題意識に対してのアプローチ。具体的には、環境自体もモデル化したコミュニケーションモデルの提案であったが、このアプローチは、今後botコミュニケーションなどを考える際に応用することで、ユーザーにとって「自分が対象である」という感覚をいかに引き起こすかという課題に対して適用可能かと思われる。

また、Andy Fitzgeraldは行動経済学の知見に基づいて、コミュニケーションにおいてのぱっと見の段階でどういった情報を伝えるべきかという視点の提示。いわゆる「スキャン(ぱっと見)」の段階での概念モデルの提示のために、メニューラベルや見出し文言、主要なキーワードの提示をどのように使うべきかという話であった。これは日本語圏でも同様に重要な視点であり、ヒューリスティクスのガイドライン的なものが提示できれば一般化も容易であろう。

こういったモデルはIAのモデルとして提示されているが、どれもUXデザインのモデルとしても適用可能であり、かつたいへん実用的なものである。日本でも活用していきたい。


なんだかんだで、これまで過去に18回開催されているIASのうち14回参加という、だいぶベテランの域に入ってしまったわけであるが、「ウェブサイトの構築における上流工程=IA」というステージから始まり、「デジタルマーケティングとプロダクトの上流工程=UXD」という段階を経て、いま、ウェブに限定されない「デジタル時代におけるコミュニケーションの根幹=IA」という位置づけになってきている感触を得た。World IA Day Tokyoとして続けている活動でも見えてきた論点も多く、このあたりで一度日本の視点を整理すべき段階であろう。

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