UX STRAT USA 2018 | Day 1
さて、日本は3連休開け、実はコンセントは有給取得推奨日で4連休目の火曜ですが、日曜から北米東海岸のプロヴィデンスにUX STRAT参加のために訪れています。UX STRATは発足当初から参加していましたが、ここ数年会社のメンバーに行ってもらったりしていて僕は久々の参加です。プロジェクトのインサイトを得るために来ていますが、やはりこういったケーススタディが充実しているカンファレンスは、実際のプロジェクトの息遣いや間合いがわかって面白いですね。話してるケースの内容よりも、話し方や重視するポイントのバランスが参考になります。
初日は、MIT Design LabのYihyun Limによるキーノートに始まり、Instagramライブストリーム開発、Targetのユーザー向けアプリの統合など、既存ブランドの価値を残しながら新しい機能をいかに生み出すかという視点でのケーススタディが展開されました。話法的なところでいうと、既存機能の改修の話をするなかで、既存ユーザーを大事にする、言いながらもいわゆる「既存分ランドを大事にして」というような「ブランドを守る」的な話はなく、強いて言えば既存ユーザーの利便を失わないようにする、ということにケアするというスタンスが印象的でした。これは前提として、既存ブランドというものはもともと定義されたバリュープロポジションに基づいているものであって、そこからブレていなければブランド戦略的には問題ない、という価値観が前提としてあることが大きな理由であると思います。このあたり、バリュープロポジションが定義されていないゆえに表面的に前例踏襲を余儀なくされることが多い日本とブランドの考え方が根本的に異なっていることを感じました。そんな話はこちらでは前提すぎて言及はされないわけですが。
また、先々週(!)に参加したIntersectionでは自律的な組織への言及が多かったわけですが、今回のUX STRATでは、ペルソナがわりにJobs to be Done(JTBD)を用いるという話が圧倒的に多かったのが印象的でした。これはメインのトピックによらずに事例のなかでのリサーチメソッドでよくみられていたのでUSでのUXリサーチのなかでの流行なのかもしれません。たしかにビジネス側の人とのコミュニケーションにはこちらのほうが通じやすいかもしれないです。
午後のセッションでは若干ゆるい話が続きましたが、UX STRATの名物スピーカーRonnie Battistaによる、ティモシーリアリーの言葉をもじった「Turn off, Tune out, Dro in」というセッションはなかなか示唆深かったです。今回のセッションでも何人かが言及していたMIT Media LabのCalm Technologyにも通じる話ですが、テクノロジーの呪縛や今生まれているSNSによる精神的ストレスを、自身の経験に注目することで解き放つというストーリーで、大きなUX Strategyを考える上での視座を得ることが出来る象徴的な話でした。
UX STRAT USA 2018 | DAY 2
昨日に引き続きUX戦略の国際会議、UX STRAT2日目の所感です。昨日もInstagramの実プロダクトの開発の話が聞けましたが、本日もGoogleの社内でのUX評価のしくみのプレゼンテーションや、Google、Facebook、AmazonのUXマネージャーによるパネルなど、かなりいまもっともUXに力を入れている企業たちの生の話が聞けるのがこのカンファレンスの特徴です。
さて、今回のUX STRATはテーマが3つにわかれていて、以下のようになっています。
- Transformation Outward (外への変革)
- Transformation Inward (中への変革)
- Transformation Forward (未来への変革)
初日の昨日は、Outward、つまり実際のプロダクトやサービスの変革が扱われ、本日はInward、つまり組織の変革とForward、新しい技術についての話となります。組織の話としては、冒頭にGoogleにおけるUXの企業内部へのインパクトの示し方、というテーマでYouTubeのUXリサーチマネージャーのCatalina Naranjo-Bockによるプレゼンテーションがもたれました。ここでは、社内でUXのインパクトを示すためにどういった活動を可視化すべきか、アピールすべきタイミングはどういったものかといったものを次々と紹介していきました。かなーり地道な活動ではありますが、それを構造化したシートを作り部内で徹底することできちんと評価が得られるようになるという意味で多くの組織で取り入れるべき活動であるといえます。そして、保険大手のNationawide社の全社を顧客志向にするリブランディング活動の事例紹介に続いて、Amazon、Facebook、GoogleのそれぞれUXマネージャーによるパネルディスカッションが行われました。ここでは各社のアプローチのトレンドやコミュニケーション上の課題などが紹介されました。話は逐次的にどんどん進んでいったのでいろいろなトピックが入り乱れましたが、面白かったトピックとしては各社ともリサーチ素材としてのビデオ利用が一般的であること、先日参加した別のカンファレンスであるIntersection18でも話題によく出ていた分散型の組織形態を目指していること、そして調査結果が広く社内で活用されるようになってきている現状を踏まえ、調査および結果の透明性の担保に努めているというあたりは参考になりました。
午後のセッションではIBMから連続して2セッション、AIとデザインの話がなされましたが、IBMということでWatson利用が前提になることもあり、具体的にUXをどのようにAIで変えていくかというものより、AIテクノロジーをとりいれるための組織のありかた、デザインにAIを取り込む際の倫理(Ethics)の視点が提示されました。特にAIを取り入れた際の倫理の課題は自動化によってこれまでよりさまざまな最適化やカスタマいぜーションが_効きすぎてしまう_ことが起こりうる状況であり、日本でも独自にも視点を持つ必要があります。
そして最期のセッションではインテルのDr. Faith McCrearyによるFraming the Future (未来をかたち作る)と題されたセッションが行われました。そこでは、未来の構築のために必要な論点として、Holistic Framing、Collaborative + Participartly、 North Stars、Accesible、Digital Intensityという視点が提示されました。このなかで、技術の発達進化によって、Human + Interfaceの時代にはUIが重要となり、プロダクトとサービスが統合された時代にはEnd to Endの体験が重視され、そしてこれからSystems of Systemsの時代ではExperience Transformationが求められるというビジョンが提示されました。これは僕の量子力学的デザイン観とも通じる視点であり、個人的にも深めていきたい論点です。
ということで、2日にわたってUX STRATに参加してきましたが、発足当初に比べてプログラムコミッティーも設立され、なによりプログラムもかなり練られたものになっている印象を受けました。特にGAFA(Appleはいないけど)の中のUX戦略の話を直接聞けるのはいいですね。大規模な商業的カンファレンスとは異なったコンパクトなものではありますが、UX戦略の今をキャッチアップするためには日本から参加する意義はあると感じます。