Service Design Global Conference 2018 #sdgc18

SDGC18 at Dublin

今年もService Design Network(SDN)が主催する、サービスデザインに関する国際会議Service Design Global Conference(SDGC)が開催された。今年は去年のスペインマドリードに続いて引き続き欧州にてアイルランドのダブリンという渋いチョイス。

この選定にはサービスデザインの自治体への導入において有名なアイルランド第二の都市コーク市が影響している。今回の筆頭スポンサーにもこのコーク州(Cork Conty)とコーク市でのサービスデザイン組織Service rePublicが名を連ねている。

コーク市はダブリン(人口120万人)に対して人口12万人と規模は1/10であるが、Service rePublicの設立や、ロンドンに拠点をかまえるデザインエージェンシーSnookによるプロジェクトなど、サービスデザインの実践に積極的な自治体として知られている。今回も、この Service rePublic設置の流れや、コーク州側の受け入れ態勢などをライトニングトークやパネルディスカッションを通じて知ることができた。興味深かったのは、現実としては市のスタッフは最初から乗り気ではなく、そういったなかでプロジェクトの推進に巻き込む人々を探しながら進めていったという経緯の部分であったが、今後のコンセントやムサビ Institute of Innovationなどでのプロジェクト推進の際の参考になった。

また、ダブリン自体もFacebook、Googleなどの北米企業の欧州中東HQが置かれている都市でもある。SDGCでもやはりダブリンに拠点を置くFacebookのデザインラボであるTTC Lab(Trust Transparency Control Lab)からのプレゼンテーションも行われていた。ダブリンのこの状況はアイルランドの税制によるところが大きいものであるので、Brexitによって今後どうなるかは興味深い。

個人的にはアイルランド、そしてダブリンといえばやはりギネスとパブ飯、そしてジェームス・ジョイス、ということでしっかり本場のシェパーズパイ(これがギネスに合うのです)を堪能し、ミーハーにユリシーズに登場するパブ Davy Byrnesでマスタード入りゴルゴンゾーラサンドイッチをいただいてきました。

Design to Deliver

閑話休題、今年のSDGCはメインテーマはDesign to Deliver、どうしても調査やモデリング(CJM、SBP、などなど)、プロトタイピングが着目されがちなサービスデザインの実施・実装部分に重きがおかれた構成となっていた。これはコンサルティングの業界との差別化を図る要素もあったように思う。実際、スポンサーにもなっている、サービスデザインを手がけるデザインファームDesignitもインドのIT大手Wiproの傘下に入り、同じくLiveworkもオスロスタジオがPwCオスロと提携するなどこの一年でもコンサルティング業界のサービスデザイン企業の買収は着々と進んでいる。

また、そういった実装という意味だけでなく、サービスデザインはどうなのかと様子をみるのではなく、さっさと具体的にやる、という意図も強く感じられた。クロージングプレナリーでは、サービスデザインの一般化に大きく寄与した「This is Service Design Thinking(TiSDT)」の著者らが、新刊「This is Service Design Doing(TiSDD)」にからめて、サービスデザインを実践するための12戒を提示していた。サービスデザインはすでに導入するとか試してみるというフェーズから具体的に成果を求められるフェーズとあっていることを感じさせられた。

サービスデザイン実践の12戒(The 12 Commandments)

  1. 言い方はどうでもよい(Call it what you like)
  2. さっさと作れ(Make shitty first drafts)
  3. ファシリテーターであれ(You are a facilitator)
  4. つべこべいわずやれ(Doing not talking)
  5. 「そうですね、でも」もしくは、「そうですね、そして」(Yes, but… & Yes, and…)
  6. 正しい解決策を見つける前に、正しい問いを探れ(Find the right problem before solving it right)
  7. 実環境でプロトタイピングせよ(Prototype in the real world)
  8. ひとつのことに全てを賭けるな(Don’t put all your eggs in one basket)
  9. これは現実を変えることであり、ツールのことではない(It’s not about tools – it’s about changing reality)
  10. 繰り返す計画を立てよ、そして適用させる(Plan for iteration… then adapt)
  11. 虫の目と鳥の目(Zoom in and zoom out)
  12. すべてサービスである(It’s all services)

サービスデザインのディスコース

サービスデザインアワードの委員長も務める「Outside In」の著者 Kerry Bodine氏は、Journey Managerという新しい職種が増えていることについて話題提供を行なっていたが、この中で欧州ではService Design、北米ではCustomer Experienceという概念で同じような課題意識が語られていることを指摘していた。

サービスデザインの定義については、前述のクロージングプレナリーでも、第1条として、「Call it what you like(好きに呼びなさい)」とあまりだれもこだわらなくなっているが、ここに対してすでに発刊された書籍などから自然言語解析を通じて用語の使われ方の傾向を分析し、サービスデザインのディスコース(定義というよりもそれがなにかを語る語り方というニュアンス)を導こうという研究プロジェクトの発表がみられた。このプロジェクトはまだ道半ばであったが、業界の中で実践のほうだけでなく、こういった足元を固める仕事がきちんと評価され、グローバルカンファレンスにおいてのひと枠を用意されているということは大変健全であり、すばらしいことである。こういったアプローチはぜひ見習っていきたい。

クリエイティブリーダーシップ

前述の通り、サービスデザインの手法やプロセスはすでに十分普及しており、いまはそれをいかに組織的に実践するかというフェーズに入っている。この観点からいかに組織内でデザインをメインストリームにしていくか、あるいはデザインおよびデザイン思考が一般化した組織においてのデザイナーの役割といったセッションも多く見られた。これはコンセントでいま取り組んでいるデザイン組織とも共通する視点であるが、実際多くの企業がこの課題に取り組んでおり、関心が高いことがうかがえた。フィンランドの金融グループOPでは、デザインについての意識がまったくなかった状態(Step 1)から、サービスをデザインする状態(Step 2)を経て、デザインプロセスを導入した状態(Step 3)、そしてデザインを戦略に活用する状態(Step 4)にまで至った経緯を共有していた。驚くべきことにこの遷移は2011年から現在までの7年間で行われており、Adaptive Pathを取り込むことで改革を推進しているCapital Oneにせよ、金融業界でのデザイン導入が求められている緊迫度が感じられた。また、DesignintのLina Nilsson氏からはDesignit/Wiproでのリーダー層へのインタビューに基づいて、求められるクリエイティブリーダーの要件を提示していた。

プロダクトマネージャー、ジャーニーマネージャー

組織におけるサービスデザイナーのふるまいを論じるセッションも多くみられた。前述のジャーニーマネージャーという新しい職種の議論もそこに含まれるが、他にもいくつかのセッションがアジャイル開発におけるサービスデザイン、プロダクトマネージャーとサービスデザイナー 、といったようなテーマでの課題の指摘を行なっていた。それらの中で、プロダクトマネージャー(PM)とサービスデザイナー(SD)の視点の違いとして、漸進的 – タッチポイント視点 – 部門視点 – 成長&利益駆動(PM)、リフレーム – ジャーニー視点 – 企業全体視点 – 適切性&効率性駆動(SD)、といったような指摘がなされた。これは納得のいくものでもあり、かつ事業にサービスデザインを導入しようとする際に起こる問題でもある。しかしながら、どうしてこの違いが生じるのかに着目する必要がある。事業の現状課題を解決し、部門に課せられた目標達成を目指し、事業発展を考えるの事業部の役割であり、これが実現されないと組織的な事業は成立しないであろう。しかしながらそれによって長期的な視点を見失ってしまうということも起こりがちなことである。

つまり、このPM的視点とSD的視点というのは対立してしまう概念であり、しかしながら同時に事業会社においては両立させなければならない視点でもある。一人の中に両者を両立させるのか、組織的に実現するのは企業での戦略に基づくものになるが、理想的にはすべての事業部メンバーにはこのSD的視点が求められるようになるであろう。これはいまデザイン思考が企業において非デザイナーを含めた組織全体に求められるようになっている状況と似ている。

以上、今年のSDGCの様子を振り返ってみた。今回、歴史ある団体であるIxDA(Interaction Design Association)とSDNとのアライアンスが発表された。IxDAとSDNとは相補的な側面があり今後のコラボレーションが期待される。今回のSDGCでの議論はサービスデザイン分野だけではなく他の分野でも論じられている。まずは、同時期に行われたUX STRAT、INTERSECTIONと比較した考察を行ってみよう(続く)。

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