UXデザインにおけるメタデザイン

先日、HCD-Netサロンにて、著書「人工知能のための哲学塾」などでも知られる三宅陽一郎氏の講演を伺った。大変刺激的な講演で、ここで全てを紹介することはできないが、話の中で氏が実際に手がけているゲームのなかでのAIでは、エージェントAI、メタAI、ナビゲーションAIという3種類のAIによる構造が用いられているという。

エージェントAIはノンプレイヤーキャラクター(NPC)と呼ばれる、操作者(自分)以外のキャラクターなどを制御するAIである。ナビゲーションAIはゲーム世界のなかでの地形や経路を制御するAIとなる。これに加えて、ゲーム業界ではメタAIという、ゲーム状況を俯瞰してルールやシナリオを制御するものが用いられているという話であった。

氏の話では、この3つのAIのバランスをとって「ゲーム体験」を構築しているという。講演のなかでは、実際にメタAIによって、ユーザーが飽きたときにイベントを発生させたり、緊張状態に合わせて難易度を変えたりする例が紹介された。これによって、ゲームの体験者はよりゲームを楽しめたり、あるいはメタAIの働きにによって、登場するNPCがより賢く見えたりするというような効果を生み出しているということであった。

質疑の場では、エージェントAIとメタAIのバランスについて質問をさせてもらったが、トップダウン(メタAI)とボトムアップ(エージェントAI)の二方向から体験を構築していると考えると、我々のUXデザインでも取り入れることができる要素が多くあることに気づく。

まず、我々のUXデザインにこのAI構造を当てはめてみると、エージェントAIの部分は、いわゆるユーザーへのタッチポイント・インタラクションといった部分に相当するだろう。最近では、このタッチポイントにおいて、Bot UIだったり音声認識/スピーカーを用いたいわゆるスマートスピーカー型などでAIが用いられていることもあるが、いずれにせよ、我々がプロジェクトにて最も注力しているものがこの部分であろう。

逆にあまり手をつけられていないものがメタAIに相当するもので、環境全体をUXを最適化する観点で補正していくというのは、例えばお客さんが少ないので音楽を大きめ(小さめ?)にするとか、経験則でそうやっていることはあるとしても、UXの方法論のなかではあまり語られていないように思う。

もっとも、ルールをすべて決められるゲーム世界に比べると現実世界で体験を構築している我々とは前提が異なるところはあるが、与える体験のシステムとしてのチューニングということであればUXデザインとしても可能であろう。また、ゲームはそれ自体ユーザー=購入者が「楽しい経験のため」ゲームを購入するという側面があるが、UX一般で考えればさまざまな状況があり、一概にメタUX的に価値を決めてしまうことにも議論の余地があろう。こういった論点出しも含め、今後この「メタUXデザイン」について考えていきたい。

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